はむはむ絵本 ~2児のママがおすすめする絵本のご紹介~

3歳男の子と6歳女の子のママです。これまでに読み聞かせてきた絵本を紹介しています。

【読書感想文/レビュー】ようかいむらのなんじゃどうぶつえん / たかいよしかず

ようかいむらのなんじゃどうぶつえん ― 心温まる妖怪たちの動物園物語

本書『ようかいむらのなんじゃどうぶつえん』は、妖怪たちが動物園を訪れるというユニークな設定で展開する物語です。一見、いたずら好きで騒がしい妖怪たちの姿が描かれていますが、その奥には、仲間を思いやる心や、素直な気持ち、そして成長していく姿が丁寧に表現されている点が、本書の魅力だと感じました。読み終えた後には、ほっこりとした温かい気持ちと、何とも言えない満足感に包まれる、そんな素敵な絵本です。

予測不能な展開と、魅力的な妖怪たち

物語の始まりは、妖怪たちが動物園にやってくるという、ワクワクする導入から始まります。しかし、すぐにモジャルンという妖怪によるいたずらが発覚し、事態は急展開を迎えます。このモジャルンのいたずら、最初は単なる悪ふざけのように見えますが、物語が進むにつれて、その背景にあるモジャルンの心情や、妖怪たちの友情が浮き彫りになっていきます。

それぞれの妖怪たちは、個性豊かな容姿と性格を持っています。いたずら好きのモジャルン、冷静沈着なリーダー的存在、臆病ながらも優しい心を持つ妖怪など、登場人物たちは皆、魅力的で、読者の心を掴んで離しません。特に、モジャルンは、一見悪ガキのようですが、その行動の奥底には、仲間への愛情や、自分が認められたいという純粋な気持ちが隠されています。このモジャルンの複雑な感情の描写は、非常に繊細で、大人である私でさえ、共感せずにはいられませんでした。

いたずらを通して見えてくる、友情と成長

モジャルンのいたずらによって、動物園は大騒動となりますが、その騒動の中で、妖怪たちの友情が深まっていく様子が描かれています。仲間を助けようとする姿や、互いを励まし合う姿は、見ている者の心を温かくします。特に印象的だったのは、他の妖怪たちが、モジャルンのいたずらを責めるのではなく、その原因を探り、解決しようと協力する場面です。この描写から、妖怪たちの間に強い絆があることが伝わってきます。

また、本書は単に騒動を描写するだけでなく、モジャルンの成長物語でもあります。いたずらによって周囲に迷惑をかけたことを理解し、反省する姿は、読者に深い感動を与えてくれます。子供たちは、モジャルンの行動を通して、自分の行動が他人にどのような影響を与えるのかを学ぶことができるでしょう。そして、失敗から学び、成長していくことの大切さを、自然な形で理解できるはずです。

絵本の魅力:色彩と表現力

本書の魅力は、ストーリーだけではありません。絵本ならではの美しいイラストも大きなポイントです。鮮やかな色彩と、生き生きとした妖怪たちの表情は、物語の世界観をさらに豊かにしています。特に、動物園の動物たちとの絡み合いは、ユーモラスで可愛らしく、子供たちの心を惹きつけます。妖怪たちの表情や仕草は、非常に細やかで、それぞれの個性が際立っています。絵を見るだけでも、物語の楽しさが伝わってくるほど、素晴らしい表現力です。

例えば、モジャルンがいたずらをする場面では、そのいたずらっぽさが、表情や体の動きから伝わってきます。一方、反省する場面では、彼の落ち込んだ表情は、見ている者の心を打つほどです。このように、絵と文章の調和がとれており、物語全体が非常に完成度の高いものになっていると感じました。

大人も楽しめる奥深さ

一見、子供向けの絵本のように見えますが、『ようかいむらのなんじゃどうぶつえん』は、大人も楽しめる奥深さを持っています。妖怪たちの行動や心理描写は、単なる子供だましではなく、人間社会における様々な問題や人間関係を、寓話的に表現しているように感じます。例えば、モジャルンのいたずらを通して、社会における「規範」や「責任」といった概念を、子供にも分かりやすい形で伝えることができます。また、妖怪たちの友情や協力は、現代社会において希薄になりがちな人間関係の大切さを改めて考えさせてくれます。

さらに、それぞれの妖怪の個性は、私たち人間社会における多様性を象徴しているようにも感じました。個性豊かな妖怪たちが、それぞれの持ち場で役割を果たし、協力し合う姿は、多様な個性が共存する社会の理想像を提示しているように思われます。

読み終えた後の余韻と、伝えたいメッセージ

読み終えた後、しばらく余韻に浸ってしまうほど、本書は心に響く作品でした。騒がしい騒動劇の裏側には、友情、成長、そして許しという、普遍的なテーマが丁寧に織り込まれています。 子供たちには、いたずらをしてはいけないこと、そして友達と協力することの大切さを、大人には、自分自身の過去や、周囲の人々との関係性を改めて見つめ直す機会を与えてくれるでしょう。

本書『ようかいむらのなんじゃどうぶつえん』は、単なる子供向けの絵本という枠を超え、老若男女問わず、心温まる感動を与えてくれる、素晴らしい作品です。ぜひ、多くの人に読んでいただきたい一冊です。 絵本の持つ力、そして物語の持つ力を改めて実感できる、そんな素敵な時間を提供してくれる絵本だと確信しています。