はむはむ絵本 ~2児のママがおすすめする絵本のご紹介~

3歳男の子と6歳女の子のママです。これまでに読み聞かせてきた絵本を紹介しています。

【絵本レビュー】トゲトゲ / はしもとみお

はしもとみおさんの絵本『トゲトゲ』ー静かな共感と優しい希望に満ちた物語

はしもとみおさん作の絵本『トゲトゲ』は、一見シンプルな言葉と絵で描かれた物語でありながら、読む者の心に深く静かに響いてくる作品です。全身にトゲが生えた「トゲトゲ」という存在が、周囲の動物たちとの触れ合いを通して変化していく様子は、私たち自身の内面と社会との関わり方を優しく問いかけてくれるかのようです。

トゲトゲという存在と、その孤独

物語は、冒頭から「トゲトゲは トゲトゲだった/いつから ここにいるのか わからない/きがつくと トゲトゲに なっていた」という、どこか切ない言葉で始まります。この言葉は、トゲトゲ自身の存在の曖昧さを、そしてその孤独を鮮やかに表現していると言えるでしょう。なぜトゲが生えたのか、いつからこの状態なのか、トゲトゲ自身も理解していません。この不明瞭さ、まさに私たち自身が抱える、自分自身の内面や過去への理解の難しさ、そしてそこから生まれる孤独感を想起させます。

絵は、淡い色彩と繊細なタッチで描かれており、トゲトゲの孤独と不安定さを視覚的に表現しています。トゲトゲの姿は、見る者に強い印象を与えます。それは単なる「トゲ」ではなく、心の棘、あるいは社会的な孤立を表しているように感じられます。このトゲトゲの姿は、決して醜くはなく、むしろ痛々しく、そしてどこか愛おしささえ感じさせるのです。

動物たちとの出会い、そして変化の兆し

物語が進むにつれて、トゲトゲは様々な動物たちと出会います。最初は警戒していましたが、動物たちはトゲトゲを攻撃したりせず、むしろ寄り添おうとします。寒い冬には、リスがトゲトゲのトゲに寄り添って暖を取ったり、雨が降る日にはカエルがトゲトゲのトゲの下で雨宿りをしたりする場面は、非常に印象的です。

これらの動物たちの行動は、私たちが社会の中で他者とどのように関わっていくべきかを示唆しているように見えます。動物たちは、トゲトゲのトゲを恐れたり、拒絶したりしません。むしろ、そのトゲを一つの個性、あるいは避けられない現実として受け入れています。そして、その受け入れを通して、トゲトゲは少しずつ変化し始めます。

動物たちの温かい視線、そして自然の優しさに包まれたトゲトゲの姿は、絵を通して繊細に描かれています。特に、動物たちの表情は、非常に穏やかで優しく、見ているだけで心が安らぎます。動物たちの温かさ、自然の包容力は、トゲトゲだけでなく、読者自身をも癒してくれるかのようです。

変わっていくトゲトゲ、そして希望

物語の終盤、トゲトゲは驚くべき変化を見せています。それは、劇的な変化ではなく、非常に静かで、しかし確実に進展する変化です。トゲトゲは、動物たちとの触れ合いを通して、自分のトゲを受け入れるだけでなく、そのトゲが他者にとって役に立つこともあることに気づいていきます。

この変化は、私たち自身の成長や変化にも通じるものがあります。私たちは、自身の欠点や弱点を克服することだけが成長ではありません。それらを認め、受け入れ、そして他者との関わりの中で、それらが新たな可能性を生み出すこともあるのです。トゲトゲの変化は、まさにそのような希望に満ちたメッセージを私たちに伝えてくれます。

絵本の全体像と余韻

『トゲトゲ』は、言葉の少ない絵本ですが、その言葉の一つ一つ、そして絵の一つ一つに深い意味が込められています。全体を通して、淡い色調と優しいタッチの絵は、物語の静けさと温かさをさらに強調しています。絵と文章の調和は見事で、読む者の心を穏やかに包み込んでくれるかのようです。

最後のページを閉じても、トゲトゲの姿や動物たちの温かい表情は、私の心の中に長く残りました。それは、単なる物語の余韻ではなく、自分自身や周囲の人々との関係について深く考えるきっかけを与えてくれたからです。

この絵本は、子供はもちろん、大人にも強くお勧めしたい一冊です。自分の内面と向き合い、そして他者との繋がりを考える機会を与えてくれる、そんな力を持った絵本だと思います。静かな感動と優しい希望に満ちた『トゲトゲ』は、きっとあなたの心を優しく包み込んでくれるでしょう。