はむはむ絵本 ~2児のママがおすすめする絵本のご紹介~

3歳男の子と6歳女の子のママです。これまでに読み聞かせてきた絵本を紹介しています。

【絵本レビュー】竹とぼくとおじいちゃん / 星川ひろ子・星川治雄

『竹とぼくとおじいちゃん』 静かな感動が心に響く、小さな発見の物語

本書『竹とぼくとおじいちゃん』は、一見シンプルなストーリーながら、読後には静かな感動と、何気ない日常の中に潜む喜びを改めて感じさせてくれる、心温まる絵本です。主人公であるつばさと、おじいちゃん、そしてすくすく成長していく竹の子たちの、穏やかな時間が丁寧に描かれており、その描写の繊細さ、そして何よりも、つばさの純粋な心の揺らぎが、読者の心を優しく包み込んでくれます。

まだ見ぬ世界の発見と、成長への期待

物語は、つばさが初めておじいちゃんと一緒に竹の子狩りに出かける場面から始まります。私たちにとって、ごくありふれた光景かもしれません。しかし、つばさの目を通して描かれる竹林は、未知の世界であり、そこに生えている竹の子は、驚きと感動に満ちた、まさに「発見」そのものです。「えっ、これが竹の子なの!?」というつばさの驚きの一言は、読者にも新鮮な驚きを与えてくれます。大人であれば見過ごしてしまうような、小さな驚きや発見を、つばさの視点を通して改めて味わうことができる、そんな体験が本書の魅力の一つと言えるでしょう。

つばさは、その日見た竹の子をきっかけに、毎日一人で竹林に通い始めます。成長していく竹の子の姿を毎日観察し、その変化を丁寧に記録していく様子は、まるで小さな研究者のように見えます。それは単なる観察ではなく、自然への深い関心、そして成長への期待が感じられます。つばさのこのひたむきな姿勢は、読者に何かを成し遂げようとする喜びや、自然の生命力への畏敬の念を思い出させてくれます。

おじいちゃんとの静かな交流、そして世代を超えた絆

つばさと共に物語を彩る存在として、おじいちゃんは重要な役割を担っています。直接的な言葉が少ないながらも、おじいちゃんはつばさの竹の子への興味を優しく見守り、時にさりげなくサポートします。竹の子狩りに連れて行ってくれたり、つばさの発見を一緒に喜んでくれたり、その行動一つ一つから、深い愛情と孫への信頼が感じられます。言葉ではなく、行動を通して示される愛情は、現代社会において時に忘れられがちな、大切な人間関係のあり方を示唆しているように思えます。

本書では、つばさとおじいちゃんの会話は多くありません。しかし、二人の間の静かな信頼関係、そして世代を超えた絆は、言葉以上に深く読者の心に伝わってきます。それは、言葉では表現できない、無言のコミュニケーションの力、そして世代間における自然な繋がりの大切さを改めて気づかせてくれるでしょう。

シンプルな絵柄の中に込められた、豊かな表現力

絵本の絵柄は、シンプルながらも温かみのあるタッチで描かれており、つばさの純粋な心を表現するのに最適です。派手な表現はありませんが、だからこそ、つばさの感情や竹林の雰囲気、そして季節の移ろいなどが、繊細に、そして効果的に表現されています。例えば、竹の子の成長過程が丁寧に描かれている点、また、竹林の光の変化や風の音などが想像できる描写は、読者の想像力を掻き立て、物語の世界観をより深く味わえるように工夫されています。

特に、竹の子の成長の様子は、時間経過を鮮やかに示しており、読者に自然の生命力の豊かさを改めて認識させます。毎日少しずつ大きくなっていく竹の子は、まさに生命の神秘を感じさせ、つばさの成長と重なり合うように、読者の心にも穏やかな感動を与えてくれます。

日常の中に潜む、小さな幸せの発見

『竹とぼくとおじいちゃん』は、特別な出来事や冒険を描いた物語ではありません。むしろ、ごくありふれた日常の出来事、そして自然との触れ合いを通して、小さな幸せや感動を発見していく物語です。つばさの視点を通して、私たちは普段見過ごしている自然の美しさ、そして何気ない日常の尊さを再認識します。

この絵本は、子供だけでなく、大人にとっても多くの学びを与えてくれるでしょう。それは、自然の大切さ、人の温かさ、そして何よりも、日常の中に潜む小さな幸せを見つけることの大切さを教えてくれます。忙しい現代社会において、この絵本は、私たちに静かに問いかけてくれます。本当に大切なものは何か、そして私たちはどのような心で生きていくべきなのか、と。

最後に、本書は、静かに、そして優しく、読者の心に語りかけてくる絵本です。シンプルながらも奥深い物語、そして繊細な絵柄は、世代を超えて多くの人々の心に響く、忘れられない一冊となることでしょう。 本書を読み終えた後、きっと皆さんも、普段何気なく見ている風景の中に、新たな発見を見つけることができるはずです。そして、日々の生活の中に、小さな幸せが溢れていることに気づけるのではないでしょうか。 静かな感動と、温かい余韻を残してくれる、そんな素晴らしい絵本です。